はじめに
私はこれまで、数えきれないほどの「あとからなら言える」という言葉を自分自身に浴びせ、また同僚や部下にも向けてきました。新規事業の企画会議で、検証フェーズを先送りして痛い失敗を経験したときも、投資判断を迷って大きな機会損失を味わったときも、その場しのぎの言い訳として「ほらね、言ったとおり」と自分を慰めていました。しかし、その都度胸の奥には後悔と自己嫌悪が渦巻き、成長のチャンスを自ら閉ざしていたことに気づくのに、ずいぶん時間がかかりました。
転機になったのは、ある大規模プロジェクトの失敗です。誰もが「予測できたはず」と指摘し合う中で、私は結果論の甘さに気づきました。事後の正しさに依存するほど、未来への行動力は失われ、組織も個人も停滞してしまう──。そのとき私は本質的に必要なのは「結果を予測し、最初から動く力」だと確信したのです。
本書では、私自身が何度も痛手を負いながら学んできた逆算思考や仮説検証の手法を、できるだけ具体的な事例とともに紹介します。単なる理論ではなく、目標から逆に現在を設計し、小さな成功体験を積み上げることで「やるべきこと」が自然と見えてくる方法論です。結果論に頼らず、自信をもって次の一手を打てるようになるためのチェックリストや会議運営術も余すところなくお伝えします。
この本を手に取ってくださったあなたには、ぜひ「未来に対して既に手を打った自分」を実感してほしいと思います。私もまだ道半ばの身ですが、結果論から抜け出し、先手を取る楽しさを味わう日々を送っています。本書があなたのキャリアと組織のイノベーションを後押しする一冊となれば幸いです。