9-1 はじめに──リーダーが背負う「結果論根絶」の使命
組織に「だから言ったじゃん」を根絶させるには、トップ自らが文化の変革をリードしなければならない。リーダーは単に意思決定を下すだけでなく、未来に対する予測を共有し、学び重視の風土をつくる責任を持つ。本節では、リーダーが担うべき役割と心得を明らかにする。
9-2 予測共有会議の設計
9-2-1 目的とゴール設定:未来シナリオの合意形成
会議冒頭で「何を達成したいのか」「どのような未来を想定しているのか」を言語化し、参加者全員で共通認識を持つ。ここで合意したシナリオが、その後の行動判断と責任所在の基準となる。
9-2-2 参加メンバーと役割分担:多様な視点の取り込み
経営層、現場担当者、リスク管理部門など異なる立場を揃えることで、仮説の盲点を減らす。各自には「仮説提案者」「リスク指摘者」「実行プラン策定者」といった役割を与え、会議の目的に応じたアウトプットを担わせる。
9-2-3 アジェンダ構成:仮説発表→リスク洗い出し→対応策決定
まず代表者が未来予測の仮説を発表し、続いてリスク指摘者が想定外の不確実性を列挙。最後に対応策策定者が「いつ、誰が、何を」行うかを固め、ドキュメントに落とし込む。これを定例化することで、後出しジャンケンの余地をなくす。
9-2-4 アウトプット共有:「予測シナリオドキュメント」の作成と配布
会議終了後すみやかに「予測シナリオドキュメント」を作成し、全員に配布。イントラやプロジェクト管理ツールに保存し、関係者はいつでも参照できる状態を維持する。
9-3 事後検証ミーティングの再定義
9-3-1 “ポストモーテム”ではなく“ラーニングセッション”へ
失敗原因追及だけのポストモーテムをやめ、成功も失敗も等しく学びに変える場として位置づける。名称変更が心理的抵抗を下げ、参加者全員が建設的に振り返りに臨みやすくなる。
9-3-2 構造化された振り返りフロー:事実確認→インサイト抽出→次アクション提案
第一に事実と定量データを確認し、次にそこから得られた気づきを共有。最後に「何を変えるか」「いつまでに実施するか」を具体化する。この三段階を厳守することで、感情論や責任追及に陥らず、次の成果に直結する学びを得られる。
9-3-3 非難を排するファシリテーション技術:ポジティブ・クエスチョンの活用
問いかけは「なぜ失敗したのか」ではなく「何がうまくいったと感じたか」「次に試す価値あるアイデアは何か」にフォーカスする。ファシリテーターは質問の言い回しと順序を工夫し、参加者が自由に提案できる雰囲気をつくり出す。
9-3-4 結果とプロセス両面の評価:KPI達成度だけでなく仮説検証の質も可視化
プロジェクトの成果(売上、納期遵守など)に加え、仮説の妥当性や検証プロセスの徹底度も評価対象に含める。これにより「結果だけよければよい」という思考から脱却し、プロセス改善へのコミットメントを高める。
9-4 リーダーの行動モデル
9-4-1 先手で語る──自らの仮説と判断根拠を公開する習慣
リーダー自身が未来への予測とその根拠を率先して共有することで、部下にも同じ行動様式を促す。たとえ予測が外れても、その学びをオープンにすることで組織の心理的安全性を高める。
9-4-2 フィードフォワードを示す──未来志向のアドバイスを定例化
部下の提案や判断に対し、過去の批判ではなく「次にこうしたらどうか」という建設的な助言を行う。定期的に一対一の面談を設定し、具体的アクションを伴ったフィードフォワードを習慣化する。
9-4-3 失敗をオープンにする──学びのストーリーを共有し、心理的安全性を高める
自らの失敗体験を社内でストーリーとして語り、得られた学びを具体的に示す。リーダーが失敗を隠さずに共有することで、部下も言い訳なしに挑戦しやすい環境をつくる。
9-5 評価制度と報酬設計で「予測力」を強化
9-5-1 予測共有への貢献をKPIに組み込む方法
部門やプロジェクトチームのKPIに「予測共有会議への参加率」や「提出したシナリオの件数」を加える。数値化することで予測活動へのコミットメントを定量評価できる。
9-5-2 検証プロセスの質を評価する360度フィードバック項目
上司だけでなく同僚や部下から、「仮説の明確さ」「リスク指摘の網羅性」「後続アクションの設計度合い」をフィードフォワード評価として収集。多角的な評価が予測精度向上を促す。
9-5-3 報奨とインセンティブ:事前共有/学び共有を讃える仕組み
予測精度が高かったチームや、学びを積極的に共有した個人に対し表彰や報奨ポイントを付与する。経営会議や社内報で公表し、予測・学び文化をインセンティブで強化する。
9-6 リーダー育成プログラムのポイント
9-6-1 ワークショップでのケース演習:予測共有&事後検証のロールプレイ
実際の過去プロジェクトを題材に、参加者が予測シナリオを作成し、その後検証会議までを演習する。体験を通じて手順の理解と定着を図る。
9-6-2 メンタリングとコーチング:行動変容を伴走支援
経験豊富なリーダーが若手リーダーの予測会議や振り返りセッションに同席し、リアルタイムで助言を行う。フィードバックではなくフィードフォワード型のコーチングを心がける。
9-6-3 継続的リフレクション:リーダー自身の意思決定ログレビュー
自身の過去の意思決定記録とその結果を定期的に振り返るセッションを設ける。予測の精度や仮説検証プロセスを自己評価し、改善ポイントを明確にする。
9-7 本章のまとめと次へつなぐ視座
予測共有会議と事後検証ミーティングを組み合わせ、リーダー自らが行動モデルを示し、評価・育成の仕組みで支えることで、「だから言ったじゃん」を組織から消せる。本書の最後に、本章で学んだ手法を総合的に活用し、“予測論組織”への道筋を示す。