序 “家族はコストセンター”という会計処理の帰結
社内で積み上げた KPI とタイトルは、家庭の帳簿には一円も記載されない。JTC 出世ゲームを優先してきたあなたのプライベート決算は、知らぬ間に赤字が累積していた。ある朝、机の上に静かに置かれた内容証明──それは人事評価シートではなく、あなたの人生の P/L を強制的に締め直す通知である。
◆ 第一幕 内容証明のインパクトは辞令の十倍
● 見慣れた社内書式と違い、妻の弁護士名義は逃げ道ゼロ
辞令は異動先が書かれているが、内容証明に書かれているのは「解除したい」という一行だけ。
● 同封の「離婚原因一覧表」
深夜帰宅の回数、家庭行事欠席率、不倫相手とのメッセージ抜粋──あなた自身が作った“証拠”が見事に整理されている。
● 脳内に浮かぶ“社長への言い訳”は無効
ここで求められるのは謝罪と金額提示であって、成果アピールでも市場分析でもない。
◆ 第二幕 調停室は肩書の効かない無風地帯
● 家裁ロビーで番号札を握りしめる屈辱
社内では部下が番号札を取ってくれた。ここでは自分で引く。しかも呼び出しは姓ではなく番号。
● 調停委員の質問は KPI を解体する
「年間残業時間は?」「家事分担率は?」──成果より行動の質を問われる。答弁のたびに自社の人事制度が空虚に響く。
● “成長のために厳しくした”論法が逆効果
子育て放棄の理由を「出世投資」と説明すると、委員の筆が止まるどころか走り出す。「経済的支援と心理的ケアは別」と一刀両断。
◆ 第三幕 財産分与という現実的ダメージ
● 成功報酬どころか“成功課税”
昇給で積み上げた退職金見込額、持株会の評価益、社宅手当の換算分──算定表に入った瞬間、半分が消える。
● 養育費は“長期リース契約”
子どもが大学卒業まで続く固定支出。契約解除条項は存在しない。給与天引きになれば副業もバレる。
● 不倫慰謝料は“期待外オプション”
社内恋愛の証拠が添付されていれば、別枠加算。あなたの甘い囁きが価格リスト化される瞬間だ。
◆ 第四幕 子どもの視線が KPI を粉砕する
● 面会交流は“月一・二時間”
スケジュール帳で最優先にマーキングしても、子どもの記憶は埋められない。父親ブランドはすでにデリスト。
● 運動会の応援席で気付く孤立
かつて部下たちが自分を囲んだような先輩パパ同士の輪に入れない。肩書を言った瞬間に視線が泳ぐ。
● SNS のタイムラインで知る成長
誕生日ケーキや入学式の写真は、元妻のアカウント経由で流れてくる。いいね!を押す資格すらない。
◆ 第五幕 社内ステータスの崩壊ドミノ
● フリーアドレス席で漂う“同情と嘲笑”
離婚話は瞬時に回覧される。自慢だった家族写真はロッカーに封印。
● 人事考課面談で上司が放つ一言
「家庭の事情、大変だと思うが無理せず」──言外に「パフォーマンス低下は自己責任」の暗黙判定。
● 昇進レースからの事実上リタイア
社外スキャンダルと同列に扱われ、表向きは「本人希望」を装った異動候補にリストアップ。
結 “プライベート IR”の怠慢は、どんな総会屋より手厳しい株主を生む
家族というステークホルダーを軽視した代償は、株価で換算できない絶望感として押し寄せる。社内での評価指標は再起可能でも、失った信頼と時間は買い戻せない。──これが JTC 出世街道で魂を売った男が、家庭という市場から強制上場廃止を宣告される瞬間である。