――ワンオペ育児を妻に丸投げする技術/子どもの行事より社内行事を優先せよ――
序 家庭は「経費」にならない
JTCにおける評価体系では、家族サービスは加点ゼロどころかマイナス要因だ。定時で帰宅する社員は「成長意欲が低い」とみなされ、育休取得などもってのほか。「家族=コストセンター」という公式を腹に叩き込んだ瞬間から、あなたの昇進スピードは一段ギアを上げる。
◆ ワンオペ育児を妻に丸投げする技術
● 交渉の基本は“将来の保証”
「今ここで出世しておけば、いずれ家族に還元できる」――このフレーズは魔法の鍵。妻の負担増を正当化する最短ルートだ。
● 家事は“二割担当”ルールで回避
二割だけ象徴的に関わり、八割は妻へ。食器一枚、オムツ交換一回で「協力している感」を演出できる。
● 子どもの成長は“写真フォルダー”で把握
実物の成長を見届ける時間はない。妻から送られる日々の写真をクラウドで確認し、「大きくなったね」でリアクション完了。
● 土曜午前の「スーツケース作戦」
金曜深夜帰宅時点で翌日ゴルフ用のキャディバッグを玄関に置く。予定を既成事実化し、家族行事の調整余地を消し込む。
● “ありがとう”より“ごめんね”を多用
感謝より謝罪のほうが短時間で済み、話を打ち切りやすい。「悪いと思っている」と口にさえすれば、実質的には何も変えなくて済む。
◆ 子どもの行事より社内行事を優先せよ
● 幼稚園の運動会と部長のゴルフ、どちらが人事評価に響くか
前者は家庭内ポイント、後者は組織内ポイント。計算式は明白だ。
● “欠席届”は親族トラブルを装え
「実家の法事」「遠方親族の入院」など、子どもの行事を欠席する口実を周囲に提示しておくと、罪悪感が希釈される。
● 行事動画は“早送り視聴”で義務感を消化
妻が撮影した二時間の行事動画を二倍速で視聴し、「○○の徒競走、一位だったね」と要点だけ褒める。これで参加率ゼロでも父親アピールは保てる。
● 社内行事で“家族愛”を語る皮肉な効果
慰労会やキックオフのスピーチで「家族の理解があってこそ今がある」と発言すると、実際に家庭を顧みなくても“家庭人イメージ”が付与される。
● ボーナスの“実物支給”で帳尻を合わせる
クリスマスや誕生日に高価な玩具や旅行をプレゼントし、年に一度だけ「父の威厳」を演出する。財政的ダメージはあるが、日々の不在感を一撃で誤魔化せる。
終 家族を“数字”に置き換えた先にあるもの
こうして家庭をコストセンター扱いし、社内行事と交際費を優先すれば、昇進レースでは確かに一歩前へ出る。だが、決算書に載らない負債は静かに膨らむ。妻の信頼、子どもの記憶、自身の生活習慣病リスク――いずれも貸借対照表の外で赤字を進行させる。
それでも突き進むのか、それとも立ち止まるのか。本章で紹介した“正解”は、延命策であって幸福への道ではない。だがJTCのルールブックでは、これを実践できる者だけが次の階段を上れることもまた、紛れもないリアルである。